アヒョン…25〜33歳くらいの女性。今作品のヒロイン。
フェン…25〜30歳くらいの男性。進藤の下で働く中国人グループのリーダー。
西嶋…25歳〜35歳くらいの男性。ドブ男の直近の部下。
少年時代の剣…7〜10歳くらいの男の子
少年時代のドブ男…7〜10歳くらいの男の子
少年時代のトニー…7〜10歳くらいの男の子
◆あらすじ(添付)
横浜の地で生まれ育った3人の幼馴染み。
時は流れ、生きている道は違えど、
「イイネ」という合い言葉は今も変わらず50歳の3人の心をつなぐ。
流れるCKB音楽と共に描く、中年の友情物語。
「マジで!?」今や横浜の顔とも言えるクレイジーケンバンド(以下、CKB)のライブ終了後の楽屋で、横山剣の幼なじみでありCKBのマネージャーでもあるトニー萩野が、満面の笑顔で「横浜スタジアムでのライブが決まった」とメンバーに報告したのだった。剣とトニーは横浜で生まれ育った以上、いつか横浜スタジアムでのライブを夢見て邁進してきた。それがまさに叶ったのだ。「とうとう横浜スタジアムかぁ」と感慨深い剣・トニー・そしてメンバーたち。
横浜スタジアムライブに向け、思い思いの感情で会場を後にする各々。帰り道、夜風にあたりながら一人横浜を歩く剣。と、山下公園の近くで数名の中国人に暴行を受けている一人の女性に遭遇する。世話焼きで、人のトラブルを放っておけない性格の剣は、女性を助け出し、追いかけてくる中国人たちを振り切るように女性の手を引き一緒に逃げる。
なんとか逃げ切った剣と女性は、やがて立ち止まり、息を整える。女性はアヒョンという名の韓国人だった。おどろいたことに、アヒョンは死別した初恋の相手:春香に瓜二つだった。『そんな女性が、困っている』剣にとって、理由はそれだけで十分だった。喫茶店を営む知り合い:葵にアヒョンを匿ってほしいと預ける。「また?」葵は今までに何人も訳ありの人間を剣から預けられており、また厄介事が増えるのはごめんだと言うものの、剣に頼み込まれて、結局仕方なく引き受けてしまうのだった。
翌日、母親の病院を見舞いにいくトニー。母の病状は進行していて、もうそんなに長くは生きられない。それを知っている剣もよくトニーの母親を見舞っていた。横浜スタジアムでのライブが決まったと母親に報告するトニー。剣のことも息子のように思っているトニーの母は我がことのように喜ぶ。病院を出ると、トニーはCKBの溜まり場であるブギーカフェに顔を出した。と、剣が昨夜、アヒョンという女性を助けたことを知る。横浜スタジアムを前に、トラブルに首を突っ込むのはやめてくれと諭すトニーだが、剣はそんなトニーの気遣いをうれしく思いながら、大丈夫だよと微笑み返す。
その頃、剣のもう一人の幼なじみ:ドブ男は、清門組組長に掛け合っていた。清門組の若頭になったドブ男は、ここ最近シャブが大量にバラまかれていることを知り、舎弟の飯島に探りを入れさせていた。その矢先、飯島が死体で発見されたのだった。十中八九、仁龍会の若頭:進藤の仕業だろうという確信をドブ男は持つ。進藤は最近横浜の土地を買い漁っている。その土地を買うための金をつくるためにシャブを大量に売っているのだと…。「ウチのシマも荒らされているから、なんとかしたい」と進言するドブ男だったが、「事を荒立てるつもりはない」と聞き流す組長。上が動かない限り、自分も動けない。歯がゆい思いをかみ殺すドブ男だった。
横浜スタジアムライブも近づいていくというのに、剣のアヒョンと共に過ごす時間は日増しに増えていくのだった。「韓国から出稼ぎに来た」という素性や「この街(横浜)で暮らす事は苦しい」などというアヒョンの想いを知っていく剣。時折涙も滲ませて語るアヒョンを励ますようにCKBの「生きる」を歌い聞かせる。アヒョンもその歌を聴いて微笑む。
アヒョンの笑顔を見たい剣は、とある日メンバーたちと共にアヒョンをドライブに誘う。メンバーの他、様々な有名人がアメ車、イタ車などで集まり、パレードのようなドライブを楽しむ剣たち。横浜の街を眺めながら風を受けてドライブするアヒョンは、日本に来て初めて心からの笑顔を浮かべた。それを見て喜ぶ一同と剣。
ところがパレード後、葵からアヒョンがいなくなったという連絡を受けて、葵の喫茶店へ行く剣。店は荒らされていて、葵の頬にも名降られた跡がある。街中を必死に探しまわる剣。
喫茶店からアヒョンを拉致したのは以前アヒョンを襲っていた中国人3人。アヒョンは港の倉庫へと連行される。倉庫の中には、仁龍会の進藤が立っていた。中国人に席を外させると進藤はアヒョンと向き合う。「どこに隠した?」「もうやめようよ!」「もうちょいだ!もう少しで俺たちの夢が叶うんじゃないか!どこに隠したか言え!」アヒョンに凶器を突きつけようとする進藤。しかし、アヒョンの顔をしばし見つめて、凶器の手を下ろす。アヒョンはそんな進藤を抱きしめると、倉庫から出て行った。
アヒョンはみなとみらいの観覧車の近くの空き地までやってくると、地面を掘り起こし、大きな鞄を掘り出した。中には大量のシャブが入っている。探しまわり、ようやくアヒョンを見つけた剣は、ゆっくりとアヒョンに近づく。アヒョンはシャブを燃やそうとライターで火をつけようとしていた。「全部…燃やすの…」と呟くアヒョン。と、その様子を見て、倉庫からアヒョンの後をつけて来た進藤が声を荒げる。
「返せ、俺の遊園地!」
「目を覚ましてよ!そんなの無理よ!」
「何言ってんだよ。もう少しでこの土地も手に入る。俺とお前の夢だろ?」
「そんなの、私欲しくないよ!」
その時、銃声が響き、仁龍会の組員たちが空き地になだれ込んできた。例の中国人たちもいる。が、組員たちが狙っていたのはアヒョンのもつシャブの鞄だった。アヒョンへ銃口を向ける組員や中国人たち。「それを渡せ、渡さなければ撃つ」。進藤、とっさにアヒョンを守るため、自分の組員たちへ銃を発砲する。剣はアヒョンを守りながら自分の車へ乗り込ませると、一気に車を発進させる。遠ざかる進藤へ、名前を連呼して叫ぶアヒョン。空き地からは銃声が鳴り響いている。
戻ってと叫ぶアヒョンをよそに、羽田空港へ車を走らせる剣。アヒョン、進藤のことを剣に話す。売春婦だった私を救ってくれ、本当に愛してくれたこと。両親から虐待され、その両親を殺してしまった進藤。小さい頃から唯一の憧れ(家族の幸せの象徴)だった遊園地を本気でこの場所につくろうとしていたこと。貧乏でも誰でも入れる遊園地をつくろうと…。「可哀想な人なの…。これ以上、壊れていく姿を見てられなかった…」というアヒョンに、「もう、何も言わなくていいよ」と優しく告げて、剣はカーステレオで「生きる」をかける。
空港でアヒョンを韓国に送る剣。「もう、駄目かな、あの人…」と泣くアヒョン。「大丈夫、なんとかする」と剣。「もしできることなら、あの人も韓国に逃がしてください。お願いします。お願いします」と繰り返すアヒョンを、剣は頷いて、優しく送り出した。
空港からの帰り道、ドブ男から連絡を受けて、二人で少年時代にいつも遊んでいた河原で落ち合う。ドブ男は進藤に巻き込まれていることも知っていた。そして、トニーが進藤からシャブをまわしてもらい売っていたことを剣に告げる。そして、アヒョンの居場所を進藤に教えたのもトニーだったと。
「なんか必要なら、なんで俺たちに言わねぇんだよ」と文句を言うドブ男に、剣はイイネを指でつくる。
「あのな、イイネをやったら、仲直りしなきゃいけないなんて、ガキの時のルールなんだよ」とぶつくさ言うドブ男。
「そういや、イイネを考えたのはトニーだったな。剣ちゃんとオレがケンカばっかりしてたから、イイネやったらどんなケンカしてても仲直りしなきゃダメだからねって…」
「トニーは優しいからね」
「全く、面倒くせーな、大人になるってのはよ」
トニーは、以前の病院から母を移した豪華な病院へやってくる。が、玄関の前で立ち止まった。病院の玄関には、剣が立っていた。
「剣ちゃん、ごめん。ごめん。金、必要でよ。色々と必要でよ」
「・・・」
「最後くらい、良いとこ、入れてやりたくてよ」
剣、トニーに微笑み、イイネを指でつくる。涙が溢れ出すトニー。
泣きながら剣へイイネを返そうとするが、涙が止まらない。トニーの肩をポンっと叩くと、剣は病院を出て行った。
進藤というボロボロの表札がかかった廃墟の長屋に入っていく剣。
そこには、毛布にくるまった進藤がうずくまっていた。毛布は血に染まっている。進藤、震える手で剣に銃口を向けるが、あきらめたようにその手を下ろす。そんな進藤に「どこに逃げたい?」と問いかける剣。
港に小さなボートを浮かべ、そこに乗っている進藤。震えながら「悪いね、迷惑かけて」と剣に話しかける。そして震える手で、剣の手にマジックでアヒョンの住む韓国の住所を書く。
「アイツを助けてやってくれよ。オレはアイツに何もしてあげられなかったから」
「もう喋るな…」
「行けるかな…住所は…覚えてるんだけどな…」
進藤、遠くを見つめてボートを漕ぎ出すが、やがてボートに横たわり息絶える。
進藤の亡骸を乗せたボートは沖へと進んでいった。
トニーを乗せたパトカーが走っている。トニーは自首することを決めたのだった。
しかし、パトカーは警察署とは違う道へ曲がる。「道が違う」と訝しく思うトニー。すると急に停車するパトカー。そこは横浜スタジアムの真ん前だった。
横浜スタジアムの前にはCKBが楽器をそろえてスタンバイしている。トニーの自首を知った剣とドブ男が知り合いの警察に手を回し、出頭する前に少しだけ、横浜スタジアムに立ち寄る時間をもらったのだった。
夢見た横浜スタジアムでのライブを見れないトニーのためにとCKBみんなからの想いだった。
演奏を始めるCKB。
「格好いい!みんな似合ってるよ、横浜スタジアム!」と泣き笑うトニー。しばらくしてパトカーは発進する。
見送るように、トニーへ剣がイイネを送る。するとCKBと一緒にいたドブ男もイイネをトニーに送る。
泣き笑うトニー、走り去るパトカーの窓から身を乗り出し、二人へイイネを返した。
残るは、アヒョン。剣は進藤の想いを受け、アヒョンに会うために一人韓国へと向かう。
が、衝撃の結末が待っていたのだ・・・。
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